shikikin
敷金返還請求事件(最高裁判決)
平成17年12月16日最高裁で敷金返還について、特約の有効性が認められない判決がありました。
大阪府住宅供給公社が取り扱う特定優良賃貸住宅の物件において、入居者が納めた敷金3ヶ月(35万3700円)の内、契約書通りに通常損耗分を敷引とし、残り5万1153円しか返還しなかった。
入居者はこれを不服とし、大阪高等裁判所(原審)へ訴え、契約書の特約が有効であるという判決だったが、上告した最高裁で特約の有効性が認められないものとし、返還金を決めるため高等裁判所に差し戻した。
注目すべきは、通常損耗に関する補修特約内容だ。確かに公社は、特約が記載された契約書(条項にはない負担区分表)を渡し、約1時間半掛けて説明を行っているが、通常損耗分の補修特約について、内容を明らかにする説明はしていなかった。
特約を設けること自体は、契約自由の原則から認められるものだが、特約の有効性については、原状回復ガイドラインが示す内容が求められるということだろう。
原状回復ガイドラインが示す特約
1.特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
2.賃借人(借主)が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
3.賃借人(借主)が特約による義務負担の意思表示をしていること
契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に契約書では明らかでない場合には、口頭により説明し、入居者がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、特約が明確に合意されていることを必要としている。
今回業界にとって衝撃だったのは、各地の裁判事例ではその地域の慣習も考慮されている場合もあるが、慣習が考慮されていない点と契約自由の原則よりも契約に至るプロセスの方が重要視された点だ。
ちなみに当サイトが会員へ提供している契約書については、原状回復ガイドラインを遵守して作成しているので、契約内容自体問題ないと思われるが、実務上、契約に至るまでのプロセスを見直さなければならないだろう。
1.原状回復ガイドラインが示す特約を遵守していること
2.重要事項説明後、賃貸借契約書のコピーを渡し、入居予定者に対し検討する日時を提供し、納得した上で契約する。
3.特約を利用する場合、契約条項とし、完全に入居者の理解と承諾を得るようにする。
ここまですると完璧でしょう。
敷金返還トラブルの現状
現在消費者からの苦情で一番多いのが、入居時に預けた敷金が返還されないというトラブルです。
トラブルが多発することから、国土交通省が原状回復ガイドラインを作成しました。
これにより敷金及び保証金は、物件を明け渡したあとに、退去時に全額返還されるべきのもので、未払賃料があればこれを控除した上で返還されるものとして位置付けられました。
しかし実情は、言ったもの勝ちで、多くの消費者は多少の修繕については、言われるがままに支払っているようです。
※対応策としては、契約時に退去時のことをよく確認するしかありません。
敷金返還でトラブルになった場合は?
敷金が還ってこない、敷金では補填できないと言われ更に請求が来た場合
部屋を綺麗に使っていたかどうか
重要事項説明書や契約書に退去時のことが記載されているどうか
※契約書等に記載されていた場合でも不当な特約の場合は、特約自体の無効を求めることはできます。
記載されていない場合や不当な請求の場合は、原状回復ガイドライン を読んで、不動産会社と交渉します。
交渉が決裂した場合は、無料相談機関を利用することをおすすめします。
契約内容についても聞かれますので、契約書を手元に置いてから電話してください。
全国の賃貸住宅に係る相談・情報提供窓口
都道府県をまたがっている不動産会社は、都道府県知事免許ではありません。国土交通大臣免許となりますので、地方整備局へ問い合わせてみましょう。
関東地方整備局
日本司法書士会連合会
全国の司法書士会があり、少額訴訟などの無料相談があります。少額訴訟を代理で依頼される場合は、弁護士よりも安く利用できます。
法テラス
法テラスとは、法律問題を抱えながら経済的な理由で解決できないでいる方のために無料法律相談や、手続費用の立替えなどの援助をおこなっています。
少額訴訟
敷金返還で決着が付かなかった場合、少額訴訟を起こすことができます。
「少額訴訟手続」は、60万円以下の金銭の支払いをめぐる、トラブルを速やかに解決する制度です。
原則として、1回の期日で審理を終え、その場で判決が言い渡されたり、和解が成立します。
判決に対し控訴はできません。不服がある場合は同じ裁判所に異議の申立てができます。
証拠は、原則として、期日において法廷で調べられるものに限られます。契約書、領収書、写真などの証拠は、当日法廷に提出すること、証人は当日法廷に出頭することが必要となります。
少額訴訟を訴えた相手が希望する場合は、通常訴訟に移行する場合があります。
全国の裁判所
少額訴訟における簡易裁判所の場所や簡易裁判所民事手続案内サービスなどの説明があります。
何故敷金返還のトラブルが起こるのか?
原因は様々ありますが、一番の要因は、悪徳不動産会社の慣習によるものでしょう。
通常不動産会社は、管理費を家主からもらっていなければ、入居者を探し契約したときの報酬、仲介手数料(家賃1ヶ月分)しかありません。
一方空き室が出ると次の入居者確保のために、古くなった設備の交換や化粧直しなどをします。当然家主が支払うものですが、不動産会社が家主へ請求すると物件の取扱い自体なくなる可能性があるため、あまり強く言えません。
その結果、敷金から補填するようになりました。
更に家主から管理費をもらっていない場合は、微細な修理などは費用を取らず直したり、家賃滞納者に向けて督促したり、管理面でも業務をこなしています。
その結果、工務店などとの癒着が広がり、退去時に消費者に対して、通常よりも高い修繕を行ったり、通常価格で品質を落としてマージンを得るようなところも多いのです。
また管理費を取っていないところは、物件の入居&退室が繰り返されるほど収入に繋がるチャンスが増えるため、建物自体を良くしようとは全く考えていません。
良い物件ほど居心地がいいため、入居者は通常よりも長く住み続けますので、安定した収入を望む家主にとっては真逆の結果になっています。
●一連の流れ
入居者が決まり、敷金(保証金)を徴収
入居者が退去すると不動産会社へ報告
不動産会社は、次の入居者確保のため、広告を開始
不動産会社は、工務店などに通常価格よりも上乗せして発注(マージンを徴収)
家主は自分が支払わなくてもいいため黙認
入居者には退去したあとに敷金が還ってくるのですが、当然仕上がりを見る術もなく、言われるがままになってしまうので、それをいいことに不動産会社は「敷金では足りないから支払いなさい」というケースが発生
あまりにひどいと消費者からクレームが発生(敷金返還トラブル)
平成10年3月国土交通省が原状回復ガイドラインを作成
平成16年10月東京都が賃貸住宅紛争防止条例(東京ルール)を条例化
補填するものがなくなり、礼金、敷引が普及(礼金と敷引)